【Management Talk】「すべての仕事が映画作りに近づいているのかもしれない」世界的テクノロジー・カンパニーが取り組む<共創>の仕組み

レノボ・ジャパン株式会社 留目真伸

米国アカデミー賞公認短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」は、2018年に迎える創立20周年に向けて、新企画「Management Talk」を立ち上げました。映画祭代表の別所哲也が、様々な企業の経営者に、その経営理念やブランドについてお話を伺う対談です。
第13回のゲストは、レノボ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 / NECパーソナルコンピュータ株式会社 代表取締役 執行役員社長 留目真伸氏。グローバルに展開するテクノロジー・カンパニーの日本法人を率いる同氏に、<パーソナルコンピューティング>の概念や<共創>の大切さについて語っていただきました。
 
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レノボ・ジャパン株式会社

レノボはThinkPadブランドで知られるPC、タブレットをはじめ、サーバー、スマートフォン、VR、ARヘッドセットから話題のスマートスピーカーまで、あらゆるデジタルデバイスを提供するグローバルカンパニー。
 
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テクノロジーをいかに課題解決に役立てられるか

 
別所本日はよろしくお願いします。勝手な先入観で言うと、レノボさんはハードメーカーという印象が強いのですが、いま現在、どのような事業を展開されているのでしょうか?
 
留目おっしゃる通り、もともとレノボはパソコンの会社です。IBMのPC事業と、現在日本ではNECのPC事業も引き継いでいます。パソコンと聞くと、市場はすでに成熟しているのではないかというイメージを持たれるかもしれません。たしかに、約35年前に登場して以降、PC市場はあまりに順調に伸び過ぎてしまったものですから、ほとんどの会社が、パソコン自体を新しくすることだけにこだわり過ぎてきたところがあります。その結果、成長率が鈍化してしまったのが業界の歴史だと思うんです。
 ただ、考えてみると、<パーソナルコンピューティング>は、パソコンだけを指すわけではありません。スマホやタブレット、サーバーも含め、すべてパーソナルコンピューティングを実現するためのものですから。我々としては、パソコンというより、<パーソナルコンピューティング>を事業として手がけているつもりです。
 
別所パソコンという枠にとらわれない事業を。パーソナルコンピューティングはこれからどうなっていくのでしょうか?
 
留目スマホやタブレットはパソコンと比べて、サイズが小さくなったり、持ちやすいものに変わったりはしていますけど、それを使ってやっていること自体はほとんど同じですよね。けれど、これからはIoTの時代です。様々なデバイスで、色々なものがインターネットに繋がって制御されていく。人間が使うものに限らず、マシン同士がコミュニケーションしてもっと便利になっていくこともあるでしょう。そうすると、いまよりもずっと膨大なデータの処理が必要になってきます。ですから、個人の生活や仕事、ライフスタイルを支えていくパーソナルコンピューティングは、まさにこれからが本番だと考えています。
 
別所楽しみですね。
 
留目ただ、テクノロジーだけが発展しても駄目なわけです。たとえば、家電を全部つなげて、ひとつのコントロールシステムを作るというコンセプトは、20年程前からありましたし、技術的にも可能でした。けれど、現実には、いまのリビングルームは、当時とそんなに変わっていませんよね。つまり、テクノロジーをいかに世の中の課題解決に役立てられるかを考えることが大切なんです。
 
別所たしかに。
 
留目かつ、一社だけでそれに取り組もうとしても難しいと考えています。いま、自宅の家電をすべて同じメーカーの製品で揃えるなんてありえないですよね。だから、オープンでいなければいけないですし、そのうえで、一つ一つのソリューションを多様なパートナーさんと丁寧に作り上げていくことが求められている。いろんな企業が提供していく製品やサービスは、全体の中の一つのパーツでしかありません。けれど、それらがつながったとき、大きなソリューションが生まれるわけです。ですから、今後、さまざまな企業や団体との掛け算が必要になってくると思います。
 
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掛け算できるプロデューサー的な役割が重要になってくる

 
別所留目社長は<共創>という言葉を大切にされていると伺っていましたが、まさにいまおっしゃっていただいたことにつながるのだと思いました。そして、<共創>の事例の一つとして、僕たちショートショート実行委員会も関わらせていただいている渋谷区さんとの取り組みがありますよね。
 
留目渋谷という街は、我々が若い頃からカルチャーの発信源でした。それがいま、「世界の中の渋谷」という位置付けのなかで、どう継続的にカルチャーを生み出し、輝いていけるか? 未来の観光都市・渋谷を作っていこうという取り組みとして、渋谷区の観光協会さんとご一緒しています。現在は、ビーコン、つまり、ある場所の近くに行くと情報が自動的にスマホやタブレットに発信されるという通信の仕組みを導入させていただいています。つまり、たとえば、私が109の近くに行くと、109でいま催されているイベントや使えるクーポンの情報が私のスマホやタブレットに届くというものです。そうした仕組みが、将来的には、AR等につながっていくと思うんですけど、まずはそのベースとなるインフラを整えているという段階です。
 
別所地域とつながって、そこでしか体験できない情報をつなげる。僕たちも「渋谷ストリートシネマ」と銘打って、公園通り入口の大型街頭ビジョンで毎晩21時にショートフィルムを上映するというプロジェクトに取り組んでいます。さらに、コラボレーション、共創といえば、「ジェダイ・チャレンジ」。
 
「ジェダイ・チャレンジ」イメージ写真 
留目「ジェダイ・チャレンジ」は、ARで「スター・ウォーズ」の世界観を表現していくという試みです。具体的な仕組みとしては、スマホをヘッドセットに差し込み、グラスに投影しています。透過型なので、実際に見えている空間を背景にして、グラスにジェダイが投影されるというイメージです。ライトセーバーも、肢の部分だけ実物としてありまして、ARの画面の中で、光刃が見える。そうやって作中のSFの世界を追体験できるわけです。もともとSFは、人間の想像力から生まれてきたわけですが、技術的にそれを現実にすることが可能になりつつあるということだと思います。日本では、11月中旬から発売予定です。
 
別所僕たちの映画祭も設立時からジョージ・ルーカスに応援してもらっているので、「ジェダイ・チャレンジ」にはとても注目しています。共創は、現実に大きなイノベーションを産んでいますね。
 
留目ええ。そうしたなかで、私は、今後も企業自体の形というのはあまり変わらないと思うのですが、企業や製品、サービス同士を掛け算し、編集して、世の中の課題を解決していくプロデューサー的な役割が重要になってくると考えているんです。もちろん、我々だけがそうした役割を担うつもりではありません。当社の本業はあくまで、最新テクノロジーを製品化していくことですから、フリーランスとして働く方や、スタートアップで働く方、行政の方と集まって、一つの作品をつくり上げていければと思っています。
 
別所様々な立場の人間でチームを組むことでイノベーションが生まれるわけですからね。
 
留目今後、企業のなかの仕事はどんどん効率化されていきます。そのなかで自分の仕事がAIやロボットに取って代わられるのではという不安をお持ちの方もいるでしょう。だけど、私はそうは思わない。課題を見つけ、解決するために必要なチームやリソースを集めて取り組んでいけるのは人間だけですから。もしかしたら、それは映画作りに似ているのかもしれないです。そして、そう考えると、すべての仕事が映画作りに近づいているとさえ言えるのかもしれません。
 

動画は企業の世界観やビジョンを体現できる

 
別所おっしゃる通りだと思います。そして、実際に、事業会社がクリエイターと組んで、自社のブランディングムービーを制作する事例が増えてきています。我々は、昨年からブランデッドショートという企業の動画コンテンツを特集する部門を立ち上げたのですが、こうした試み、そしてブランディングについてはどのようにお考えでしょうか?
 
留目非常に面白い試みだと思います。今は、ブランディングが本当に難しくなっている時代です。一昔前であれば、コトラー先生がおっしゃっていたように、プロダクトごとにどうブランディングしていくかという考え方もありました。けれど、とにかくモノが溢れている現代において、「いま現在この製品がいかに優れているのか」を説明することはもはやブランディングではありません。世の中や消費者が求めているのは一社一社の製品ではなくて、全体をつなぎ合わせるソリューションや、世の中が大きく変わっていくという期待感、つまり、企業の世界観、ビジョンです。そうしたなかで、まさにそれを体現できるものが動画だと思います。
 
別所お話を伺っていて、僕たちも留目さんたちとなにか共創したいなと思いました。勝手な夢を語らせていただくと、御社のハードに最初からショートフィルムが実装されていて、毎朝ショートフィルムが観られるといったような。
 
留目面白いですね。たとえばいま、我々は、パソコンやタブレットを家のなかのサイネージ的な役割にしていこうという構想を持っています。必要な時に見るということではなくて、常にそこにあって、風景でも天気予報でも、常に情報を出し続けているという。ショートフィルムはそういう使われ方に相性がいいのではないかなと思います。
 
写真④
 
別所ぜひ具現化できればと。続いては、留目さんのパーソナルなお話もお伺いしたいと思います。商社、戦略コンサル等を経て現在に至っているわけですよね。もともと学生時代はどんな夢を持っていたのでしょうか?
 
留目学生時代は本当に勉強していなくて(笑)。高校は、早大学院という、早稲田大学にほぼ確実に進学できる付属校でした。男子校ということを除けば本当に大学と一緒で、私服でしたし、出席を取らない先生もいまし……大学生活も当然のようにその延長線上で、あまり勉強していなかった(笑)。それで、就職活動のときには、漠然と「大きな仕事」をしたいと考え、海外でプラントのような大きなものを作りたい、と商社を選んだわけです。
 
別所僕も俳優でなければ商社で働きたいと思っていました。実際にプラントを作られたんですか?
 
留目ええ。プラントの仕事で海外に行かせてもらいました。駐在では韓国が長く、二年間ほど。英語も通じないような田舎でしたから、時間に余裕ができて、人生で初めて非常にたくさんの本を読んだんです。そこで、もともと自分がやりたかった「大きな仕事」のイメージが、実はすごく安直だったのではないかと思い至りまして。会社の意思決定をする経営という仕事の方が、より「大きな仕事」なのではないかと感じ、戦略コンサルに転職したんです。ただ、戦略コンサルに入ってわかったのは、コンサルはあくまで第三者で、当事者ではないということ。それで次は、当事者として働きたいということで、事業会社のデルに移籍。そのあと何社かを経て、レノボに入社しました。
 
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ビジネス界の日本人メジャーリーガーを

 
別所そうしたなかで、この先、経営者として、そして、ビジネスマンとしてどのようなビジョンをお持ちなのでしょうか? <和魂洋才>というキーワードのもと、グローバル企業で働く日本人の団体「GAISHIKEI LEADERS」を主宰されているとも伺っています。
 
留目私は、ビジネス界の日本人メジャーリーガーがもっとたくさん出てこなければいけないと真剣に考えているんです。我々は学生時代に、野茂選手が初めてメジャーリーグに挑戦する姿を目の当たりにして、すごく憧れたわけですよね。それまでは『巨人の星』の世界で、プロ野球といえば巨人だった。だけど野茂選手の活躍によって、日本人だってメジャーリーグで通用するんだと目が開かれたと思うんです。そこからサッカーにつながって、世界で戦う日本人のスポーツ選手が当たり前になった。俳優だってそうでしょう? ビジネスマンだって同じようにならなければいけない。たとえば、グローバルでトップ100の大企業のCEOに日本人が就任したっておかしくないわけです。だけど、まだまだ日本人は、ビジネスのメジャーリーグをイメージできていない。
 
別所たしかにまだいないですね。
 
留目ただ、今現在そこに近づいている状況の人も出てきていますから、一人なってしまえば、きっと当たり前のように続いていける。私自身も自分が頑張れるところまではやろうと思っていますし、たとえ自分がそこまでたどり着かなかったとしても、次の世代に同じようなビジョンを伝えていって、ビジネスの世界でグローバルに活躍していける日本人を増やしていきたい。日本人には日本人の良さがあるので、得点を挙げるフォワードでなくてもよくて、周囲とうまく調和がとれて最後に結論をきっちり出せるミッドフィルダーのようなポジションだっていいわけです。そういう日本人の良さは、グローバルでも必ず通用すると確信しています。
 
別所ワクワクしてきますね。本日はありがとうございました。
 

(2017.10.3)


留目社長近影_s
留目真伸(とどめ まさのぶ)
 
1971年9月22日 東京都生まれ 
1994年 早稲田大学 政治経済学部 卒業
1994年4月 株式会社トーメン入社
2000年6月 モニター・グループ入社
2002年10月 デル株式会社入社
2006年4月 株式会社ファーストリテイリング入社
2006年12月 レノボ・ジャパン株式会社入社
2007年1月 レノボ・ジャパン 執行役員就任
2009年7月 レノボ・ジャパン 執行役員常務就任
2011年7月 NECパーソナルコンピュータ株式会社 取締役就任
2013年1月 レノボ・ジャパン 執行役員専務就任
2013年6月 NECパーソナルコンピュータ株式会社 取締役執行役員常務就任
2015年4月 NECパーソナルコンピュータ株式会社 代表執行役員社長就任/レノボ・ジャパン株式会社 代表取締役社長就任