【Management Talk】「デジタル化によってクリエイティブの質、プレゼンテーションの方法はさらに重要になっている」最先端技術で世界中のクリエイターを支えるアドビが見つめる未来

アドビ システムズ株式会社 佐分利ユージン

米国アカデミー賞公認短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」は、2018年に迎える創立20周年に向けて、新企画「Management Talk」を立ち上げました。映画祭代表の別所哲也が、様々な企業の経営者に、その経営理念やブランドについてお話を伺う対談です。
第14回のゲストは、アドビ システムズ株式会社 代表取締役社長 佐分利ユージン氏。動画、デザイン、イラスト、写真……あらゆる分野で世界中のクリエイターを支える最先端企業が現在取り組んでいることとは? AIやパーソナライゼーションについても語っていただきました。
 
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アドビ システムズ株式会社

アドビは「世界を動かすデジタル体験を」をミッションに掲げ、Adobe Creative Cloud、Adobe Document Cloud、Adobe Experience Cloudの3つのクラウドサービスを提供しています。クリエイティブツールとドキュメントソリューションによって優れたコンテンツを構築し、統合マーケティングソリューションで分析したデータに基づいて適切な人に適切なタイミングでコンテンツを届けます。
 
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クラウド越しの共同作業で業務効率を上げる

 
別所アドビさんといえば「クリエイティブ」というイメージがとても強いです。僕が主宰する映画祭ショートショート フィルムフェスティバルにご応募してくださるクリエイターの多くも、「Creative Cloud」を使用しています。いまや映像制作においては、ポストプロダクションでなにができるか学んでいないと撮影現場を組み立てられないというくらい、御社の製品の重要性が高まっていますよね。
 
佐分利クリエイティブの分野でいうと、別所さんもご存知の通り、昨今、コンテンツの需要は爆発的に高まっています。あるデータによると、現在、一般の人たちが接触する情報量は、80年代と比べて約400倍になっているそうです。その一番の要因は、言うまでもなく、スマホやタブレットが普及したことでしょう。ところがその一方で、クリエイターやデザイナーの人口は増えていない。いま、われわれは、そうした需要と供給のギャップをテクノロジーの力でどう解決していくかという課題にとくにフォーカスしています。
 
別所なるほど。同じコンテンツでもスマホ、タブレット、デジタルサイネージ、AR、VRなど、さまざまなタイプが必要とされますもんね。その部分をテクノロジーで。
 
佐分利さらに、「Creative Cloud」をとおして全世界のクリエイターが参加できる「Behance」というオンラインコミュニティも運営しています。自分の作品を発表したり、意見を求めたりできる場です。各ジャンルにおいて世界中の玄人が参加しているので、イラストでも、動画でも、写真でも、その分野のプロフェッショナルとオンラインで瞬時につながれる。あるいは、自分のポートフォリオやスキルを公開して求職をしたり、プロジェクトの仲間を募集したり……と、クラウド越しで多面的に展開しています。
 
別所御社の強みを生かした非常にユニークな試みですね。
 
佐分利いま、製作のワークフローはどんどん複雑化しています。かつてのように一人で机に向かって黙々と作業するというよりは、たとえば動画であれば、オーディオ、撮影、ポスプロといったそれぞれの分野のスペシャリストが、クラウドをとおしてデザインガイドラインを共有し、パラレルで作業するケースが増えている。その方法だと、作品のクオリティを維持したうえで業務効率、生産性を上げることができるわけです。
 
別所僕が俳優として出演した映画でも、撮影はシンガポール、ポスプロはインドネシア、音楽はタイ、編集はフランスといったように、国境を越えて製作チームを組んでいました。これからの時代、それがスタンダードになってくるのかもしれないですね。そして御社は、「Creative Cloud」にくわえて、「Document Cloud」というサービスにも注力されていると伺っています。
 

パーソナライゼーションで “おもてなし”

 
佐分利「Document Cloud」は、「PDF」という世界でもっとも広く使用されているファイルフォーマットを使って、ワークフローの効率化をはかろうという、主にオフィスワーカー向けのサービスです。最新の例ですと、電子サインが挙げられます。日本ではまだ印鑑文化が一般的ですけど、すでに海外ではEサインがかなり普及しています。スマートフォンやタブレットの画面に指でサインするという形で、不動産や自動車の契約にも使われているんです。電子サインであれば、物理的な書類に署名するためにオフィスに戻って、それからわざわざ郵送して……といったプロセスやそれにかかるタイムラグ、コストを省くことができる。いつでもどこでも承認作業、確認作業が可能になるわけです。
 
別所僕もEサインの経験はあるんですけど、本人の認証作業がちょっと不安に感じる部分もあります。
 
佐分利セキュリティには様々なレベルがありますが、我々が提供しているものだと、アカウント情報やIPアドレス、タイムスタンプを使って本人を認証しています。最高に強固な認証プロセスかと言われるとそこまでのレベルではありませんが、そもそも、本人の認証がそこまで追求されることは、紙の書類だって少ないでしょう。そういう部分を気にしすぎるよりも、電子化による業務効率向上の方がはるかにメリットが高いのではないでしょうか。
 
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別所たしかにそうかもしれませんね。さらに、クラウドサービスでいうと、「Experience Cloud」もありますね。
 
佐分利「Experience Cloud」は、BtoB事業ですので、世間にはあまり知られていない製品群ですが、現在もっとも成長率が高いサービスです。
いま、消費者が一番困っていることは、過大な情報量です。そうした状況において、消費者にとっても企業にとっても必要なことは、パーソナライゼーションなんです。ユーザーのデータを分析、活用して、そのプロファイルをどんどん作っていくことで、その人に合わせた“おもてなし”、その人に一番響くコンテンツを届けることを可能にする。そうやって、導入した企業と一般消費者の関係を最高のものにしていくツールが「Experience Cloud」です。
 
別所パーソナライズは、マーケティングやブランディングとも深く関わってくる概念ですよね。佐分利さんはマーケティングやブランディングについてはどのようにお考えですか?
 

AIの力を使ってクリエイターに貢献

 
佐分利すでにこの10年で大きく変化しています。2000年代半ば頃から、ブランド側が発信するメッセージよりも、お客様の声の方が影響力の強い時代になった。たとえば、アマゾンで買い物をするときに、多くの方は、メーカーが出している製品説明よりも、ユーザーの五つ星評価やレビューを参考にされますよね。つまり、いかにファンベースを作り、自社ブランドや製品のアンバサダーになっていただくかが大事になっているわけです。
 
別所SNSの力も大きいですよね。まさに商品のスペックを語る時代は終わっていて、いかに共感を生めるかという時代が到来した。企業もそのために様々な努力をしていて、そのなかで、僕たちの映画祭では昨年、企業が作る映画と広告の中間のような動画、ブランデッドムービーにフォーカスする部門「ブランデッドショート」を設立しました。
 
佐分利コンテンツでブランドや製品への共感を呼ぶことは、今後も重要な要素だと思います。それにまつわる自動車業界の面白いデータをご紹介しましょう。5年程前までは、車の購入を決定するまでに、お客様は平均して5、6回ショウルームに足を運んでいたそうです。そこで、店員さんから説明を受けたり、試乗したり、カタログを持ち帰って家族と相談していたわけです。ところが現在では、それが1.5回にまで減少している。つまり、50%のお客様は一発勝負。数百万円もするお買い物であるにも関わらずです。どうしてそんなことになっているのかというと、お客様が事前にWebでものすごく分析しているから。そして、メーカー側も、動画をはじめ様々なコンテンツを使ったり、Webとテレビを連動させてブランディングを強化しているから。そういうクリエイティブの質、そして、プレゼンテーションの方法はさらに重要になっているのだと思います。
 
別所非常に興味深いデータです。実物を見る前に、Web等のコンテンツによって選択をほぼ決定しているのかもしれませんね。そんななか御社がこれから注目しているのはどのような分野でしょうか?
 
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佐分利世間ではいま、AIが大きな話題になっていますが、クリエイティブの世界においても、AIの力を生かしてクリエイターに貢献できるのではないかと考えています。
 
別所御社では、「Adobe Sensei」というAIを開発しているんですよね。具体的にはどのようなものなのでしょうか?
 
佐分利これまではアナログでもデジタルでも、頭のなかにあるアイデアを実際にアウトプットするには相当な時間がかかっていたわけですよね。それが、AIを使うことによって短縮できるわけです。たとえば、自分が理想とするイメージの写真や音声を入力すると、AIがそれをうまく組み合わせたデザインで出力してくれる。もちろん最後には人間の手が入るのですが、そうやって、いままでは10段階あったプロセスを、AIによって5段階くらいに減らすことができることがある。また、AIの助けによって、これまで玄人が何十年も経験を積んで習得していた技術を、アマチュアの方も使えるようになるかもしれない。それはつまり、クリエイティブへの参加人口が増えるということになるのだと思います。
 
別所映像の世界でもAIが使われるようになるでしょうね。そうなってくると、ますます人間のクリエイティビティや美意識が問われますよね。それさえビッグデータで解析されてしまうのかもしれませんけど。
 

次世代は、モノよりも経験という価値観

 
佐分利世代によっては、それに対する価値観も全然違いますからね。私にはティーンエージャーの子供が3人いるんですけど、子供たちとこういう会話をしてもまったく通じませんから。「機械に全部任せてしまったら、人間のクリエイティブな発想がないじゃん」と言っても、「え? なに言ってるの?」って。でも、今後、消費の主役になって行く世代を考えると、もしかしたらいま私たちがこだわっていることは将来そんなに重要視されないようになるのかもしれないと思ってしまいますね。
 
別所僕も娘と話して同じように感じる部分はあります。
 
佐分利ただ、ミレニアルやジェネレーションZといった世代の面白い特徴は、経験欲が強いことだと感じます。私たちの世代は、どちらかというと物欲が強い傾向にあるような気がするんですが、その世代は、モノを買うというより、体験を重視している。Instagramだって、「自分がこういう体験をしている」ことをシェアしたいという気持ちから生まれているのだと思います。だから、私たちから見て、たしかに少し鈍感になっている部分はあるのかもしれませんが、物欲ではなくて体験なんだというところに、私は希望を持ちますね。だってよく考えたらそっちの方が大事でしょう?
 
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別所そうかもしれません。そして、体験ということでいうと、佐分利社長ご自身は映画を観るという体験を最近されていますか?
 
佐分利昔と比べて増えていると思います。飛行機に乗るときもそうですし、いまはタブレットやスマホで気軽に観られますから。映画館については、少なくとも僕は一人で行くことはあまりなくて、その前後になにか予定を入れて家族や友人と一緒に行くことがほとんどですね。ここには、一人行動と団体行動の違いがあるのかもしれません。
 
別所僕はそれをお風呂でよくたとえるんです。みんな自宅にお風呂はあるけれど、銭湯や温泉、スポーツ施設等にも行きますよね。それは、単純に入浴のためだけではなくて、そこで沸き起こるコミュニケーションを求めているんだと思うんです。ですから、映画においても、コンテンツそのもののクオリティを磨きあげることは当然必要なんですけど、映画によって、どういう体験を作り上げて、そこに提示できるかが大切であるような気がしています。そうしたなかで、僕たちの映画祭とアドビさんは非常に親和性が高いと感じていますので、なにか一緒に体験を作り出すことができればと願っています。
 
佐分利ぜひなにか一緒にできるといいですね。
 
別所よろしくお願いします。本日はありがとうございました。
 

(2017.11.2)

 


 
近影
佐分利ユージン
米国オレゴン州出身。ワシントン大学卒業後、徳間書店、マイクロソフトを経て2014年7月にアドビシステムズ日本法人の代表取締役社長に就任。19年間在籍したマイクロソフトでは9年間を日本で過ごし、そのうち2006年から2009年まで最高マーケティング責任者 (CMO)として同社の日本におけるマーケティングおよびオペレーションを統括しました。