【Management Talk】「どんなに格好いいことでも、一般大衆から評価されなければ駄目だと思う」商業と芸術を両立させ人が集まる場所をつくる

株式会社商業藝術 貞廣一鑑

米国アカデミー賞公認短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」は、2018年の創立20周年に合わせて、対談企画「Management Talk」を立ち上げました。映画祭代表の別所哲也が、様々な企業の経営者に、その経営理念やブランドについてお話を伺っていきます。
第17回のゲストは、株式会社商業藝術代表取締役社長 貞廣一鑑氏。「クロッシング・ビジネス」をコンセプトに、さまざまなかたちで人が集まる場をプロデュースし続ける貞廣氏。外食産業にとどまらないビジネス展開に込めた思い、そして、商業藝術が掲げるスローガン「あなたを上映する。Make a Cinema Day」について詳しくお話をお伺いしました。
 
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株式会社商業藝術

「あなたを上映する Make a Cinema Day」をスローガンのもと、カフェやスタンディングバー、京都おばんざいなどの飲食事業を主に手掛け、今では東京・横浜・大阪・京都・名古屋・広島・岡山・福岡など、日本全国に事業を拡大しています。 その他、ヘアサロン事業、ウェディング事業など全国に85店舗を展開中。
 
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人と人が触れ合う一瞬一瞬のシーンを大切に切り取る

 
別所まずは、御社の事業、そして、「商業藝術」という社名について教えていただけますでしょうか。
 
貞廣私たちの事業は、基本的には外食産業にカテゴライズされるのですが、その括りのなかだけでビジネスをしているつもりはありません。私たちは、空間やおもてなしも含めて、「人が集まる場所」を作ろうとしている。そのためには、商業と芸術の両方が必要だと考えました。つまり、単に美味しいとか接客がいい、というだけではなくて、アートやカルチャーといった、ある種、ビジネスとは相反する部分も事業として両立させるところに商機があるのではないかと。それで、「商業藝術」という名前が生まれました。そのあたりはおそらく、映画も同じではないですか?
 
別所おっしゃる通りだと思います。僕たちが手がけている表現の分野でも、大衆性のあるエンタメと、芸術性を突き詰めるアートのバランスが必要だと感じています。商業藝術さんのスローガンは、「あなたを上映する。Make a Cinema Day」。はっと心を打たれました。
 
貞廣私は10代の頃からビジネスの世界に入っていますけど、数十年の経験のなかで実感したコアな部分というのは、やっぱり「人」です。外食産業に限らずさまざまなマニュアルがあるなかでも、いかに人が個性を出して、人と人とが触れ合う気持ち良さを生み出せるか。私にとって業種や業態は着るものみたいな感覚で、大事なのは、それを着る人。そういう意味で、人と人が触れ合う一瞬一瞬のシーンを大切に切り取ろうよという思いが、「あなたを上映する。Make a Cinema Day」という行動指針につながっています。
 
別所一瞬一瞬のシーンを。素敵ですね。
 
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貞廣また、これまでに私たちがオープンした店をさかのぼっていくと、映画館の跡地が多いんです。たとえば、広島の「EIGHT」というお店。ご存知の通り、最近はシネコンが主流ですが、広島では、歴史的に単館系の映画館が頑張っていました。毎週、その映画館が選んで上映する作品だからという理由で、老若男女が集まっていた。だけど、やはりシネコンに押されて、惜しまれながら閉じてしまった映画館がありました。私たちは、その跡地で、なにかできないかと考えて、そのお店を作ったんです。また、実際問題としても、映画館の跡地は、物件として使いづらいので家賃も安いわけです。そういったことも含めて、われわれが何に比喩して会社を表現していくのかと考えたときに、映画なのかもしれないな、と思ったところもあります。
 
別所素晴らしい話ですね。御社は「編集事業」を謳ってらっしゃいますけど、そういうことも含めてなんでしょうね。
 

広島の魅力的な側面を発信していきたい

 
貞廣ええ。当然ながら、ゼロから一を生み出すのは難しいわけですよね。じゃあどうするかというときに、誰かの真似ではなくて、既存の文化を編集して新しい文化を生み出そうと。飲食というフォーマットのなかに、デザイン、アート、スタイル、サウンドなどを融合させることで、人が集まる場所を作る「クロッシング・ビジネス」を実現していきたいと考えています。
 
別所いまでこそライフスタイルという言葉が横行していますけど、御社はずっとそうした取り組みをしてきているわけですね。
 
貞廣ええ。そのためにもやはり人しかないと思っています。人の個性をどう活かせるか。逆に質問なんですけど、表現の世界の場合はどうなんでしょう? 別所さんは俳優としてどうやって個性を出しているんですか?
 
別所僕は、「レ・ミゼラブル」の舞台でジャン・バルジャンを演じたときに、俳優としての個性について深く考えました。僕を含めた4人がジャン・バルジャンを演じたのですが、当然、それぞれに個性やスタイルがあるわけですよね。だけど、演じるのは同じ役だから、やっぱりみんなそれぞれに葛藤があった。それを察してか、英国のロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの演出家が、僕たち4人を集めてこんな言葉をかけてくれたんです。「あなたたち4人が同じ役を演じて、それでも自然と滲み出てくるものが個性です。自分を信じてください」と。それがいまでも胸に残っています。
 
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貞廣たしかにおっしゃる通りですよね。やはりマニュアルや台本だけではわからない。いまのお話を伺って個性が大切だと改めて感じました。
 
別所個性ということでいうと、御社は広島出身の会社という個性もあるかと思います。広島についてはどのような思いをお持ちでしょう?
 
貞廣私自身は、北海道生まれの広島育ちですが、商業藝術は広島で誕生し、広島で育った会社ですので、やはり特別な思いはあります。広島の多々ある魅力的な側面をポジティブに発信していきたい。実は、私たちには、「No more Hiroshima , Yes more Hiroshima」というスローガンがあるんです。「No more Hiroshima」は、言わずもがなですけど、「Yes more Hiroshima」には、「もっと広島の良さをわかってもらいたい」という思いを込めていて、名刺にも表記しています。
 
別所なるほど。
 
貞廣また、広島は、多様な人々が行き交うクロス・ポイントでもありますから、人の集まる場所を作ろうとする私たちにとっては、ひときわ魅力的なエリアです。新規事業を興す際は必ず、広島からスタートしています。それは、広島が好きだからとか、思い入れがあるからという理由ではなく、冷静に客観的に受け止めてくれる広島のお客さまが、ビジネスをテストするうえでありがたい存在だからです。広島の人たちは熱しやすく冷めやすいと言われていて、反応がとても早いので、広島で定着することができれば、どの地域にも汎用できるビジネスモデルだと言えると思っています。
 
別所たしかに、その土地土地の気候や風土、歴史によって、そこで暮らす人の考え方も違ってくるんでしょうね。では、続いて、御社のブランディングについてお伺いしたいと思います。僕の主宰する「ショートショート フィルムフェスティバル」のなかでは「ブランデッドショート」という部門を作って企業のブランディング動画を特集しているのですが、御社はブランディングやマーケティングなどについてはどのようにお考えでしょうか?
 

売れている作品が、すなわちいい作品なのか?

 
貞廣私たちの根底にあるのは、売上をあげようということよりも、人と人がクロスする場所を作ろう、という考え方ですから、そのために必要な手法を選択するというのが基本的な方針です。人と人があるべき接点を持つために動画やSNSが必要であれば使いますし、不要であれば使わないというなかで、自然と施策は決まっていきますね。
 
別所御社の飲食事業と僕たちの映像事業でなにか新しいことを編集できたら面白いかもしれないなと思いました。
 
貞廣たしかにそうですね。動画は非常にわかりやすいですし、日本のクリエイターはどんな分野でも非常に優秀なので、接点は絶対にあるのではないでしょうか。たとえば最近だと、食事をしながら映画を観るというスタイルがトライアルされていますよね。僕も福岡に観に行きました。それから数年前に有楽町で、『ゴッドファーザー』をオーケストラの生演奏つきで観るという試みもあったと記憶しています。ですからきっと、組み合わせのアイデアはたくさんあるのでしょう。ところで、別所さんは、映画は映画館で観るべきものだと思いますか? 最近はスマホでも観られますし、DVDもありますし、いろいろな方法があると思うんですけど。
 
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別所まさに、そこは僕たちにとって大きなテーマです。僕自身の考えでは、ウィンドウはなんでもいい。それよりもむしろ、スマホでショートフィルムが観られる時代に、本当の意味で「シネマチック」な作品ってどんなものなんだろうということの方が問われているような気がするんですよね。つまり、映画ってなんだろう? って。もちろんそれは、人それぞれだとなんでしょうけど、僕は、起承転結ではなくて奇想天外なもの、現実からジャンプする力を持つ作品であることが大事だと思っています。
 
貞廣なるほど。では、もう一点質問してもよろしいですか? 私は商売をしているうえで、売れるものがいいものだという感覚があるんです。ただ、いまの映画の世界のなかで、売れている作品がすなわちいい作品なのかというと、疑問な部分はありますよね。そこはどうお考えでしょうか?
 
別所それも永遠のテーマでしょうが、僕は、万人が共感する大きな物語の時代は終わったと感じています。単体では大ヒットしているようには見えない作品でも、ある人にとっては非常に意味のある物語と言えることもある。だから、僕は、必ずしも「売れている映画=良い映画」ではないような気がします。
 
貞廣なるほど。ただ、大ヒットしているということは、その作品が支持されているということですよね。僕自身は、素直にそれが正しいと受け取らなければいけないという気持ちもありまして……。
 
別所作品を観たからといって必ずしも受け入れているとは限りませんからね。内容云々というよりは、周りがみんな観ているから自分も観ておかないと、といった不安もあったり。そういう人間の集団心理も、大ヒットが生まれる背景にはあるように思えます。
 
貞廣たしかにそうかもしれません。僕はヨーロッパに行くといつも、映画館が自然に佇んでいるな、と感じるんです。流行っているとか廃れているとかではなくて。日本の場合、なにかブームになりがちな風潮はありますよね。
 

「マイナーだからかっこいい」という風潮を壊したい

 
別所僕が嫌いなのは、海外で評価されたら日本でも評価されるという流れ。アカデミー賞をとったら手放しで賞賛されるとか……。海外の人が日本人に求めているのは、僕たちが世界をどう見ているのかとか、僕たちがなにを美味しい、美しいと思っているかでしょう。そこを表現していかないと。
 
貞廣そうなんですよね。また、ブームに乗る人がいる一方で、マイノリティの側の姿勢もちょっと歪に感じるところがあります。正直に言いますけど、僕はメジャー志向です。どんなに格好いいことをしていても、一般大衆が評価しなければ駄目だと思っている。だけど、日本人には、メジャーに対するマイナーだからかっこいいと考える傾向もあって。
 
別所黙って良い作品を作っていれば、わかってくれる人はわかってくれる、みたいな……。
 
貞廣実際になにかを黙々と作っている当人や、本当にそれが好きな人は間違っていないと思うんですけど、「私だけがこれを知っていて、これが最高なんだ」というところで、そのマイナー性を差別化の道具としてファッション感覚で使っている人が多い気がしています。それはすごくもったいないなと思いますし、そういう風潮をぶち壊してニュートラルに持っていかないとつまらないなとも感じています。
 
別所メジャーにしてもマイナーにしても、自分が価値を判断しているのではないという。貞廣さんのそうした考えは、冒頭で伺った「商業芸術藝術」という社名に込めた思いにもつながっているようにも感じられました。それでは最後に、この先、貞廣さんがどんなことを企てているのか教えてください。
 
貞廣本当はもう少し戦略的に展開しなければいけないのですが、私の場合、これまでもずっと、目標から逆算して何かをするというより、「いま何をするか」しか考えてこなかったんです。会社自体もその積み重ねです。ですから、とにかく、自分たちがいまできることに日々注力していくということですね。出店する物件も出会いが全てですから。出会いのなかでやっていくしかないと思っています。
 
別所ぜひ今回の出会いを機に何か生まれればと思います。本日はありがとうございました。

(2018.4.17)

 
 
貞廣一鑑(さだひろ かずみ)
近影
1963年生まれ
70年広島に転居。81年ディスコで勤め始める。83年広島市内でディスコ「キサクラブ」を始める。84年上京。91年飲食店「にんにくや」を始める。93年「元希」を創業。97年広島市中区に「茶茶」を開店。2000年本社を広島から東京に移す。12年「商業藝術」に社名変更。17年9月末期で年商82億円。