【BRANDED SHORTS 2019 レポート】届けたいのは、“気づき”と“勇気”。

SMA啓発ショートフィルム「Bon Voyage 〜SMAの勇者、ここに誕生~」完成披露イベントレポート

「脊髄性筋萎縮症(SMA)という神経の病気はあまり知られていない。認知度を高め、SMAの患者さんがより活躍できる社会をつくりたい」。
ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2019で行われた、「Bon Voyage 〜SMAの勇者、ここに誕生~」完成披露イベントの冒頭、本作品を制作したバイオジェン・ジャパン株式会社の代表取締役社長 アジェイ・スレイクさんはこう話しました。神経疾患に特化した製薬会社である同社は、ショートフィルムを通して、SMAの啓発を目指すといいます。
イベントでは、医療監修を担当した医師によるSMAについての講演と、監督やキャスト、演技指導を行ったSMA患者さん2名を加えたトークセッションを実施。
ここでは、制作の裏側や作品への想いが語られたトークセッションの様子をお届けします。
 

 

■ 病気に気づき、診断され、前を向く。そんな心の動きを丁寧に描きたかった

 
トークセッションでまず話題になったのが、SMAをテーマにした作品を制作するにあたってのこだわりについて。主演の中島広稀さん、三ツ橋勇二監督は、それぞれ次のように話します。
 
中島:本作品の長さは15分。その短い時間のなかで、主人公の青年が体の異変を感じ、病院にかかってSMAと診断され、悲しみや憤りを抱えながらも前を向くまでの1年間を描いています。この15分のなかに込められているものは、あまりにも大きい。一つひとつのシーンについてよく考え、丁寧に表現しなければならないと思いました。
 
三ツ橋:制作にあたってこだわったのは、患者さんがSMAと診断をされたときの心情を忠実に再現することです。僕は、中島さんは“自分の内側を見つめること”が得意な俳優さんだと思っていて。彼なら患者さんの感情や心の移り変わりをうまく演じられるのはないかと考えて、この役をお願いしました。
それから、演技監修をお願いしたSMA患者さんである下島直宏さんに、当時の気持ちや体の状態を詳しく教えてもらいましたね。
 
下島:「あなたはSMAという筋肉が萎縮する病気です」と診断された当時、頭では理解できても、これからどうなってしまうのかと不安でいっぱいでした。それから長らく苦しみと戦い、さまざまな方との出会いがあって前を向けるようになり、今があります。三ツ橋監督も中島さんも、そんな患者の気持ちを汲み取ってうまく表現してくれて、感動しています。
 

■ 現場の雰囲気のよさとキャストの努力が、リアルな描写につながる

 
続いて話題になったのは、撮影の舞台裏。作品に出演したSMA患者さんでありネイリストの上田菜々さんは、撮影現場の雰囲気はとてもよかったと話します。
 
三ツ橋:作品には、上田さんにも出演してもらいました。上田さんの第一印象は、びっくりするくらい明るいということですね。上田さんの僕に対する印象は、あまりよくないんじゃないかな……。スカイプでお話ししたんですが、サングラスをかけていましたし(笑)。
 
上田:そんなことありません!映画監督と聞いて厳しい方をイメージしていましたが、優しくて安心しました。現場の雰囲気もとてもよくて、みなさん不慣れな私によくしてくれました。中島さんとアドリブで話すシーンもあったんですが、好きな音楽が似ていることもあって、自然と会話が盛り上がりました。
 
中島さんは下島さんの指導を受けて、“歩き方”を体に覚え込ませた。
 
中島:本作品のお話をいただくまで、SMAのことは知らなくて。もちろんどんな症状が現れるかもわからないので、下島さんに教えてもらいながら、体の動き、特に“歩き方”を何度も練習して体に覚え込ませました。
 
下島:SMAは発症時期によってⅠ〜Ⅲ型の3つのタイプに分けられ、上田さんはⅡ型(生後7~18ヶ月に発症)、私と本作の主人公はⅢ型(生後18ヶ月〜青年期に発症)の患者です。Ⅲ型には特有の“歩き方”があるので、それをお伝えしました。とはいってもさすが俳優さん、飲み込みも早かったですし、素晴らしい表現力を見せてもらいましたね。
 
完成した作品を観て、下島さんも医療監修の齋藤加代子先生も、そのリアルさを高く評価している。
 
下島:最初にもお話ししたとおり、SMA患者の心情が忠実に描かれていて、まるで自分の人生を走馬灯のように見せてもらった感覚でした。
 
齋藤:医学生に見せたいくらい、SMAの所見をうまく表現できていると思いますね。もちろん精神的な面もよく描かれていて、実在する患者さんの人生にスポットライトを当てたような、リアリティのある作品になっていると感じました。
 

 

■ 作品に込めたメッセージ……もう少しだけ、世の中を丁寧に見てほしい

 
「この役を演じる前後で変わったことは?」と聞かれた中島さんは、早期発見の重要性を真に理解したことと答えます。これを受けて、下島さん、上田さんも大きく頷きました。
 
中島:本作への出演で学んだことのひとつが、体の異変に気づくことの重要性。病気の種類を問わず「早期発見が大切」とよく言われますが、その意味を理解できました。
 
下島:作中で描かれているとおり、Ⅲ型SMAの場合、幼い頃は元気なケースが多いんです。そして思春期頃から症状が現れはじめて、徐々に悪化していく。実際に私も、体の異変を感じたのは中学校3年生の頃で、走るのが遅くなりました。でも、そういう変化は見逃されがち。足が遅くなっても、なかなか病気だとは思いませんよね。だから、Ⅲ型SMAは発見が遅れるんです。
実際に私も、SMAと診断されたのは成人してから。私は歯科医師をしているんですが、開業後のことでした。
 
上田:本人だけでなく、家族や周りの人が体の動きに違和感を覚えたら、とにかく病院に行ってほしいですね。病気であること、病名がわかることで適切な治療を受けられますし、気持ちも前に進めるはず。自分の体の状態を知れば、“これからどうすべきか”が自然と見えてきますから。
 
下島:上田さんのおっしゃるとおりで、SMAという診断を受けたときは、ショックな反面でホッとする気持ちもあったんです。長年悩まされていた原因不明の不調にようやく名前がついた、と。
 
最後に中島さんと三ツ橋監督が、作品を通して伝えたいことを教えてくれました。
 
中島:一人でも多くの方に観てもらって、SMAという病気がもっと広く知られるようになればと思います。そしてこの作品が、SMAに気づくきっかけや、患者さんが前を向く力になったらとてもうれしいです。
 
三ツ橋:SMAを早期に発見するためのひとつのカギは、先ほども話題に上ったように、患者さんの周りの方が異変に気づくこと。そのためには、僕たち一人ひとりが、世の中をもう少し丁寧に見ることが必要です。このショートフィルムが、そんな優しい視線を生み出すきっかけになればいいなと思っています。
 

(文:中島香菜)

 
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『Bon Voyage 〜SMAの勇者、ここに誕生~』本編は公式サイト「TOGETHER IN SMA – 脊髄性筋萎縮症(SMA)とともに」でご覧いただけます。