「共通するのは利他主義という精神」社会課題解決に挑む企業グループ創業者が語る熱い思い

株式会社LIFULL 代表取締役社長 井上高志

米国アカデミー賞公認短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」は、2018年の創立20周年に合わせて、対談企画「Management Talk」を立ち上げました。映画祭代表の別所哲也が、様々な企業の経営者に、その経営理念やブランドについてお話を伺っていきます。
第29回のゲストは、株式会社LIFULLの創業者で代表取締役社長の井上高志さんです。「利他主義」を社是に掲げ、世界中の人々の暮らしを幸せにするため、不動産業界にとどまらない事業展開を行っているLIFULL。創業のきっかけからその歴史、ブランディング展開についてまで、たっぷりとお話いただきました。
 
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株式会社LIFULL

LIFULLは「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージに掲げ、現在はグループとして世界63ヶ国でサービスを提供しています。
主要サービスである不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」は総掲載物件数No.1(※)。また、空き家の再生を軸とした「LIFULL地方創生」、シニアの暮らしに寄り添う「LIFULL介護」、ママの子育てと仕事の両立を支援する「LIFULL FaM」など、 人生・暮らしを豊かにするさまざまな領域に事業拡大しています。
LIFULLグループは、より多くの人が心からの安心と喜びを得られる社会の実現のため「世界一のライフデータベース & ソリューション・カンパニー」 を目指しています。
※産経広告社調べ(2019.1.7)
 


 
写真②
 

22歳で「日本の不動産業界を変革する」と決意

 
別所最初に、井上社長が起業するまでのお話をお伺いできますでしょうか?
 
井上私は1991年に新卒でリクルートコスモス(現:コスモスイニシア)というデベロッパーに入社したんです。けれども、時代はバブル崩壊直後……入社後3ヶ月足らずで、同期約300人のうち大半のメンバーが他社に出向・転籍することになり、私は親会社のリクルートで働くことになりました。
それでも、転籍前の短い期間でしたが、私は、不動産会社の社員として、お客様にとって最高の住居を提供する喜びを強く実感しました。そして、その一方で、義憤を覚えることもありました。当時の不動産業界にはやんちゃな人が多かったですから(笑)。
 
別所(笑)。
 
井上だから、私は「日本の不動産業界を変革する」という大きな旗印を掲げたわけです。とはいえ、22歳の新人ですから、どこから手をつけていいのか全くわからなかった。だから、まずは転籍先のリクルートでとにかく自分自身が成長しよう、と、不平不満なんて言わずがむしゃらに働きました。そして同時に、現在LIFULLが展開しているビジネスモデルやコンセプトをずっと考えていたんです。
 
別所素晴らしい姿勢ですね。そして1995年に創業。
 
井上はい。もともと、就職してから5年以内に独立しようと決めていたので、リクルートに4年間務めた後、26歳で起業しました。時代はちょうどインターネットの黎明期。私はそれまでずっと営業マンしかやってこなかったので、テクノロジーは詳しくありませんでしたが、自分で勉強しながら、「HOME’S(ホームズ、現LIFULL HOME’S)」を立ち上げたんです。日本で初めての不動産や住宅情報のポータルサイトでした。
 
別所日本初の。
 
井上私たちは創業当初から、「パブリックカンパニー」になろうと考えていました。つまり、マネタイズ効率の良い広告を出稿してくれるクライアントだけを重視するのではなくて、全国津々浦々で蛇口をひねれば水が出るように、日本国内の物件情報を100%網羅することで、社会のインフラになることを目指そう、と。そして、プラットフォームとして、透明性を確保し、人々に安心安全も提供する。そういう思いで事業を展開し、創業してから10年程で東証マザーズに上場、その3年後の2010年には東証一部に市場変更しました。そして、2年前に社名を「ネクスト」から「LIFULL」に変更。これは、「LIFE」と「FULL」を合わせた造語で、「あらゆるLIFEを、FULLに。」という願いのもと、世界中のありとあらゆる人々の人生や暮らしを満たしていく企業グループを目指すことを宣言した社名です。
 

2025年には「100カ国で100のグループ会社」を

 
別所LIFULLさんをそこまで成長させてきた過程には、どのようなターニングポイントがあったのでしょうか?
 
井上創業から20年以上経っていますから、すぐに思いつくだけで5、6エピソードあるような気がします。まず、思い出されるのは、ホームズの事業が黒字化して離陸するまでの6、7年間という我慢の期間です。会社として、システム開発の受託事業でなんとか食いつなぎながら、ホームズの未来に投資し続けたという。ようやく黒字化できたときは本当に嬉しかったです。そこから時代の波もきて、アクセス数ベースでは年々3倍増。急成長しました。さらに、そのタイミングで価格改定を行い、売上も利益も一気に好転したわけです。それが一つのターニングポイントと言えるでしょう。
 
別所未来に投資し続けた結果、光が差してきた。
 
写真③
 
井上さらにその後、2011年に再び料金改定を実施しました。このインパクトは大きかったです。それまでは、物件一件ごとにサイトへの掲載料をいただいていたのですが、変更後は、掲載料は何件でも無料にして、問い合わせが発生した成果に応じて従量課金するという仕組みにしたんです。当初、各方面から様々なご意見をいただき……掲載する側にとっても成果報酬の方がお得に使っていただけるのですが、「なにか裏があるんじゃないか」って(笑)。そのとき初めて減収減益を経験しました。もちろん、ある程度は想定内だったので絶対にリカバリーできると信じていたものの、当時最前線に出ていた営業の担当者には相当苦労をかけたと思います。みんな、心が折れて会社に帰ってきていた。それでも私は「この戦略はシミュレーションを徹底的にやりきったんだから、うまくいかないはずがない。自信を持っていけ」と、信念を持って営業担当者たちを送り出しました。結果、それまでの数年間、150万件くらいで頭打ちだった物件のデータベースが、600万〜700万件まで一気広がって、国内最大規模の不動産ポータルサイトになれたのです。
 
別所見事に戦略が成功して業界ナンバー1に。さらに、近年、御社は不動産業界の枠にとどまらない事業も推進されていると伺っています。
 
井上ええ。おっしゃる通り、LIFULLでは様々な新規事業を展開していますが、その根底には共通する精神があります。私たちが社是として掲げている「利他主義」という考え方です。仏教用語の「自利利他」に由来する言葉で、世のため人のためになることを行えば、自分の利になって帰ってくる、という意味。要するに、自分が幸せになりたければ、他人にとって良いことをしなさい、という話ですね。私たちは、一般消費者、顧客、従業員、取引先、株主、地球環境……すべてのステークホルダーをひっくるめて、そのどれかに偏ることなく世の中を幸せにしたい。そのマイルストーンとして、2025年には、100カ国で100のグループ会社を展開し、それぞれが世界中でいろいろな社会課題を解決していくという企業群になりたい。そういうビジョンを掲げています。
 
別所壮大ですね。
 
井上私がベンチマークしている企業にイギリスのVirginという企業グループがあります。トップのリチャード・ブランソンはご存知でしょう? Virginは、未上場でありながら、売上は約5兆円、従業員は約5万人、グループ会社が約500社。単純計算すると、1社あたり100人で100億円の売上です。その約500社が、世界中ありとあらゆる業種でVirgin流の手法でサービスを展開している。非常にかっこいいと思います。
 
別所たしかに。
 
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社長と副社長以下の差

 
井上そして、LIFULLとして、100社グループ会社を作るということは、100人の社長が生まれることになります。私は、そこにも大きな意義があると考えているんです。別所さんもよくおわかりのとおり、社長と副社長以下には、その思考や責任感において、雲泥の差があります。社長と副社長の距離よりも、副社長と新卒の社員の距離の方が近いとさえ言えるでしょう。イメージとしては、副社長までだと、地球にいて緯度経度、時間をある程度把握しながら判断ができるけれど、トップに立つと、宇宙に放り出され、方角も時間もわからないまま意思決定して進まなければならない、という感覚で。その差は歴然です。だから、私が100社/100カ国と言っているのは、背水の陣で、全責任を背負って事業に取り組める人材を育成したいからなんです。「あらゆるLIFEを、FULLに。」という同じ思いを持った100人の社長が生まれ、それぞれの領域で新たな事業に挑戦していってほしいと願っています。
 
別所現在までには、具体的にはどのようなグループ会社が誕生しているのでしょうか?
 
井上たとえば、老人ホーム・高齢者住宅検索サイト『LIFULL介護』の運営等を行なっている「LIFULL senior」という会社があります。いま、老人介護施設の区分は非常に複雑で。特養、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など、十数種類ほどあって、一般人にはその違いがなかなか理解できない状況です。私たちは、その仕組みをわかりやすく解説し、簡単に検索できるサイトを作り、現在では、業界ナンバー1になっています。
また、規格外野菜や余剰野菜などを活用したスムージーをオフィスに提供する「Clean Smoothie」や、流通のロスを少しでもなくすため、市場直送でご家庭にお花をお届けする「LIFULL FLOWER」という事業もスタートしています。いずれも新卒で入社した女性社員の発案でした。
 

全国の廃校グラウンドで青空映画館を

 
別所企業内起業がどんどん。素晴らしいですね。それでは、ブランディング活動についてのお話もお伺いできればと思います。社外とのコミュニケーションについてはどのように取り組まれているのでしょうか?
 
井上現在は、「LIFULL HOME’S」が売上全体の約80%程度を占めているので、ブランディングもそこが中心にはなっていますが、企業全体としてのメッセージを発信する動画も作っています。たとえば、「しなきゃ、なんてない。」という120秒のCM。「既成概念の枠から自由になり、多様な人の、多様な生き方をサポートする」という思いを込めたもので、ステレオタイプな決めつけを飛び超えるような力強い言葉を発信しています。
 

 
別所動画の力を感じます! 僕たちも20年以上、映画祭や映像制作といった動画に関わる事業を行なっていますので、御社ともなにかご一緒できると嬉しいなと思っています。
 
井上いいですね。動画については、私がまだ取り組めていなくて、ずっと温めているアイデアがあります。LIFULLでは、地方創生にも取り組んでいて、空き家はもちろん、廃校にも注目しているんです。廃校は、小中学校だけで全国に5,000校以上あると言われています。個人のアイデアとして、私は、その校庭に青空映画館を作ったら面白いと考えているんです。全国1,000箇所くらいで。ショートフィルムを上映したり、バーベキューをできるようにすれば、地域の人々や旅行者のコミュニケーションの場になる。何人かの自治体の首長にこの話をしたことがあるのですが、みなさん興味津々でした。
 
別所ぜひご一緒したいですね。廃校ではないですが、僕たちも最近、長野県の阿智村で上映会を実施し、大盛況でしたから。そのアイデアはきっとうまくいくと思います。僕たちの映画祭には、地域をフィーチャーした動画を特集する観光映像大賞もありますし。
 
井上それぞれの地域をクローズアップした映画が、全国の青空映画館を巡回していったら観光にも寄与するでしょうし、字幕をつけて海外展開という手もあるかもしれません。さまざまな展開ができそうで楽しみですね(笑)。
 
別所ぜひ改めてご相談させてください(笑)。本日はありがとうございました。

(2019.8.20)

 


 

井上高志(株式会社LIFULL 代表取締役社長)

 
LIFULL_井上高志3
新卒入社した株式会社リクルートコスモス(現、株式会社コスモスイニシア)勤務時代に「不動産業界の仕組みを変えたい」との強い想いを抱き、1997年独立して株式会社ネクスト(現LIFULL)を設立。インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指し、不動産・住宅情報サイト「HOME’S(現:LIFULL HOME’S)」を立ち上げ、掲載物件数No.1(※)のサイトに育て上げる。コーポレートメッセージには、社名の由来である「あらゆるLIFEを、FULLに。」を掲げ、不動産領域だけでなく、地方創生、介護、引越し、クラウドファンディングサービスなど暮らしに関わるあらゆるサービスをLIFULLグループとして展開。近年では海外事業も拡大し、国内外併せて約20社のグループ会社、世界63ヶ国にサービス展開している。
※産経広告社調査(2019.1.7)