「より楽しく、よりラクに、豊かな日常生活を」フランス生まれのティファールが日本で展開するブランディングとその進化

株式会社グループセブ ジャパン アンドリュー・ブバラ

米国アカデミー賞公認短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」は、2018年の創立20周年に合わせて、対談企画「Management Talk」を立ち上げました。映画祭代表の別所哲也が、様々な企業の経営者に、その経営理念やブランドについてお話を伺っていきます。
第36回のゲストは、株式会社グループセブ ジャパン 代表取締役社長 アンドリュー・ブバラさんです。ご家庭でお馴染み、フランスの調理器具・小型家電ブランド「ティファール」の日本での販売を手がけるグループセブ ジャパン。アンドリュー・ブバラ社長には、同社の歴史や商品、そして、ブランディングについてじっくりお話しいただきました。
 
写真①
 
株式会社グループセブ ジャパン
株式会社グループセブ ジャパンは、フランスに本社を置く調理器具・小型家電のメーカー「Groupe SEB(グループセブ)」の日本法人です。フランスの調理器具・小型家電ブランド「ティファール」をはじめ、ドイツのキッチン&テーブルウェアブランド「WMF(ヴェーエムエフ)*コーヒーマシンを除く」、イタリアの調理器具ブランド「ラゴスティーナ」の3ブランドの販売を、日本全国で展開しています。
 
写真②
 

付加価値をつけて差別化

 
別所はじめに、新型コロナウイルスの影響についてお伺いできればと思います。
 
アンドリューティファールの家電分野の主な製造拠点は中国にあります。ですから、当初は、商品の製造・供給に大きな影響がありました。工場が一時ストップし、数ヶ月間、商品の供給が途絶えたんです。当時、私たちは、新生活シーズンのプロモーションに向けてさまざまな準備を行っていましたが、訴求商品を在庫のあるものに差し替えたり、広告枠をキャンセルしたりと、急ピッチでの対応を迫られました。
 
別所まずは仕入れに影響が。
 
アンドリューその後、中国は意外と早く復活しましたが、ご存知のとおり、コロナ禍は全世界に広がっていって……今度は、ティファールのフライパンや鍋のほとんどを製造するフランスの工場が製造停止になりました。去年の三月、四月頃のことです。ただ、フライパンや鍋は、船で日本に輸送しているので、仕入れに直接的な影響があったのは、その数ヶ月後のことでした。その間は、スローモーションで成り行きを見守っているような感覚だったかもしれません。
 
別所船便だと数ヶ月前に製造されたものが届くから。品薄になるまでにディレイがあったわけですね。
 
アンドリューええ。その一方で、ステイホームの時間が長くなりましたので、皆様のクッキングに対する興味関心が非常に高まりました。そうすると、良い調理器具への需要も自然と高まってくる。それは一見、私たちにとって追い風のように思われるかもしれません……けれども、事態はそう単純ではなかったです。需要の爆発的な高まりは日本だけに限らず、世界中で起こった。すると、工場が復活した後も製造がなかなか追いつかないわけです。しばらくは品薄の状態が続いてしまいました。
 
別所うれしい悲鳴ではありますが……。
 
アンドリュー日本では、今年に入ってようやく安定供給の目処が立ったところです。コロナ禍においては、予想外のことが次々起こりましたので、会社の柔軟性が非常に強く問われたと感じています。そうしたなかで、私たちはなんとか自分たちなりのベストは尽くしてこられたかなと思っています。
 
別所これまで通りのやり方ではなかなか難しい状況が続いていますから。おっしゃるとおり、柔軟性をもって対応することが大切ですよね。続いては、御社の企業としての成り立ちをお伺いできればと思います。
 
アンドリューグループセブの歴史は、1857年にフランス南部のブルゴーニュ地方ではじまりました。「セブ(SEB)」は、「ブルゴーニュの金属工場(Société d’Emboutissage de Bourgogne)」を略した言葉です。その名の通り当初は町の金属工場でした。初めて消費者向けの商品を作ったのは、それからずっと後の1953年のことです。最初は、圧力鍋でした。現在でも創業の地である小さな村には、全世界の圧力鍋を作っている工場があります。
 
別所すごい歴史ですね。
 
アンドリュー圧力鍋のあと、フライパンや鍋も作りはじめ、1968年に別会社だったティファールを買収しました。そして、その後も買収を進めて、グローバル企業として拡大してきたんです。日本への正式な進出は1975年です。
 
別所もともとティファールは別会社だったんですね。
 
アンドリューええ。ただ、日本では、しばらくは、「セブ」ブランドで展開していて、「ティファール」ブランドに切り替えたのは1998年のことでした。ですから、国内では23年しか歴史がないです。意外と若い。ブランドスイッチの際は、それまでの5倍ほど宣伝投資をして、ティファールブランドを強く訴求し、ブランド作りに注力しました。
 
写真③
 
別所社長の考えるティファールブランドとはどのようなものでしょうか?
 
アンドリューティファールは、お客様の日常生活をより楽しく、よりラクに、豊かにできるブランドだと考えています。そして、私たちはイノベーションの会社です。価格を下げるよりも、付加価値をつけて差別化する。たとえば、「こびりつきにくいフライパン」は、ティファールによる世界で初めての発明です。また、日本で特に人気のある「取っ手のとれるフライパン」も画期的な商品でしょう。これは、1998年、ブランドスイッチの年に発売され、大きな反響を呼びました。
 
別所僕の家にもあります。取っ手のとれるタイプは本当に便利ですよね。収納しやすいし、洗うときにも便利なうえ、容器としても使える。まさに発想の転換によるイノベーションだと思います。
 
アンドリューありがとうございます(笑)。簡単なアイデアから大きな付加価値が生まれた製品の代表例ですね。取っ手のとれるフライパンは、それまで主要な販路だった百貨店というよりもテレビショッピングによって爆発的にヒットした商品でした。
 
別所あと僕は、電気ケトルも愛用しています。「あっ!という間にすぐに沸く」(笑)。
 
アンドリューありがとうございます(笑)。電気ケトルの日本発売は2001年です。家電としてはティファールで初めてのヒット商品で、これをきっかけに、日本市場で急成長のフェーズに入りました。これも、従来の百貨店というよりも、家電量販店といったマスチャネルで売れた商品です。
 
別所販路を拡大することによって、さらに多くのお客様に愛されるようになったんですね。社長としてお客様とのコミュニケーションで大切にされているのはどのようなことでしょう?
 

商品とお客様を結びつけるストーリーテリング

 
アンドリュー私たちはメーカーですので、まずは何よりも、いい商品を作って、皆様に使っていただいて、よいクチコミを広げてもらうというのが一番です。その次に、会社の宣伝活動があります。当社は、ブランドに対する意識を高く持っているため、他国のグループセブの販売会社に比べて、TVCMの出稿量が多いです。それも、商品中心のCMをできるだけ多く露出することが一つの戦略となっています。また、従来は、大都市圏を中心に広告出稿を行ってきましたが、数年前から、全国各地でブランドを発信するようになりました。
 
別所ターゲットを広げているわけですね
 
アンドリューええ。あとは、広告以外に、ブランディングにおける貢献度が高いものとして、直営店の存在があります。全国に約50店舗あるティファールストアです。もともとはアウトレットモールにだけ出店していましたが、近年は、さまざまなショッピングモールに積極的に進出しています。お客様が直接、ティファールの商品ラインナップの豊富さを目にするができる非常に大切なプレゼンテーションの場になっています。もちろん、店舗の役割のメインは商品を販売することですけど、結果的に、別の意味でも非常に大きな効果をもたらしてくれています。
 
別所ショウルーム的な意味でも。その一方で、オンラインの重要性もますます増していますよね。
 
アンドリューそうですね。コロナの影響でオンラインの売上は著しく伸びました。ただ、メーカーとしていい商品を作っているという自負があるからこそ、実際に店舗で手にとってほしいと願う気持ちは変わりません。そういう体験は、リアル店舗でしかできませんから。
 
別所オンラインとオフラインの両方でバランスをとることが大事なんでしょうね。日常の道具だから、握ったときの感触や重さも大切。相性もありますし。僕も時々料理するのでよくわかります。そして、僕は、人がティファールを使うさまざまなシーンがとてもシネマチックだと感じることがあります。ライフスタイルのストーリーがあるというか。
 
写真④
 
アンドリューありがとうございます。電気ケトルの例で言うと、20年前、日本では、お湯を沸かすときの選択肢が、やかんとジャーポットの二択しかありませんでした。そこに電気ケトルという全く新しい提案が入ってきたわけです。そのときに重要だったのが、商品とお客様を結びつけるストーリーテリングです。新しいからこそ、その良さを人々の生活のなかでわかりやすく描く必要があった。商品としては、とにかく早くお湯が沸くという利点があります。そこで、私たちは、皆様ご存知の「あっ!という間にすぐに沸く」というキャッチコピーからはじまって、生活のなかにある電気ケトルを使うさまざまなシーン、たとえば、朝寝坊した時にもスイッチ一つでお湯を沸かせるとか、来客が予想以上に早く着いてしまった場合にもすぐにお茶の用意ができるとか、そういったシーンを発信していったんです。
 
別所まさに目に浮かぶようなストーリーですね。
 
アンドリューもう一つ例があります。最近、お湯の温度をコントロールできる電気ケトルが人気です。実は、私が入社した2015年に、フランス本国から日本での発売を打診された商品なんです。当時イギリスでヒットしていたんですね。紅茶の味はお湯の温度で変わるから人気だと。私は、日本にもお茶があるからいけるのではないかと考えて取り扱いを決めました。けれども、お店でPOPを作ったりして注力したものの、期待していたほど人気は出ませんでした。それでそのときは、いい商品なんだけど値段がちょっと高いのかなあ……と考えていたんです。
 
別所ええ。
 
アンドリューけれども、それは勘違いでした。グループインタビューでお客様の声を集めた時に、将来どんな機能のあるケトルが登場してほしいかを尋ねてみると、「温度までぴったりと設定できるケトルがほしい」といった声がけっこう多かったんです。ティファールから出しているのに(笑)。でも、それは、ストーリーが伝わっていなかったんですね。店舗で出していたPOPも、すでにケトルを探しているお客様には届いていたけれど、一般の方々にはリーチしていなかった。そこで、温度コントロールできる電気ケトルのテレビCMを作ることを決めたわけです。商品のベネフィットを15秒でシネマティックに表現するために、家族それぞれに好みの温度で飲み物を作るという動画を作りました。2018年12月から放送した結果、それまでの約5倍の売り上げになりました。さらに、他社からも同じ機能を持つ商品が次々と発売されるようになった。最近では、市場全体の2割程度が温度コントロールタイプになっています。
 

買って満足、アフォーダブルなラグジュアリーを

 
別所市場自体を開拓したわけですね。すごい。僕は、御社のスチーマーも大好きなんです。衣装だって自分でちゃちゃっとアイロンできてしまうという。これも画期的な商品ですよね。
 
アンドリュー衣類スチーマーの市場は2015年頃から活性化して、いまでもブームが続いています。ヒットのポイントはやはり、人口減による人手不足の影響で、女性や高齢者が昔より外で働くようになっていることが挙げられます。その間接的な影響で、皆様の在宅時間も短くなり、必然的に家事にかけられる時間も減っている。そうすると、時短できる家電のニーズは高まります。衣類スチーマーはその一つです。
 
別所コロナの影響で在宅時間が増えたとしても、その便利さはやめられないですよね。いまは除菌も重要な機能ですし。そして、僕は、ティファールには、道具としての使う楽しさがあると感じるんです。自分にとって、出かける前や帰宅した後に使う衣類スチーマーは、もはや生活習慣とも言えるかもしれない。そういう意味でもまさに御社は、ライフスタイルカンパニーだなって思います。
 
アンドリューありがとうございます。私たちもまさに、皆様のライフスタイルの向上に貢献したいと考えています。ティファールにはほかにも、クックフォーミーという電気圧力鍋があって、献立選びから調理まで、時短を突き詰めています。しかも、出来上がる料理が美味しい。食卓でも家族が喜ぶ画期的な商品です。
 
写真⑤
 
別所本当にさまざまなストーリーが目に浮かびます。私の主宰するショートショートフィルムフェスティバル & アジアという映画祭では、企業や商品にまつわる物語、ショートフィルムを特集する「BRANDED SHORTS」という部門がありますが、これからの情報発信、物語発信について、社長はどのようにお考えでしょう。
 
アンドリューこれまでは、メディアごとのテンプレートに合わせて作った情報を発信するやり方がメインでした。テレビCMなら15秒か30秒ですし、新聞や雑誌ならサイズが決まっていました。けれども現在では、Webをはじめさまざまなプラットフォームが生まれ、コンテンツの観られ方も多種多様になっています。より自由にストーリーテリングできるようになったとも言えますし、逆に難しくなった部分もあるでしょう。そうしたなかで、私たちとしては、新しい取り組みに積極的に挑戦し可能性を広げていきたいと強く考えています。実は、数年前に、ブランディングのための映像も作ったことがありましたが、これからさらにトライしていけたらいいなと思っています。
 
別所僕は本当にショートフィルムには可能性が満ち溢れていると信じていますので、ぜひ御社にも作っていただきたいですね。あとは、SNSについての取り組みはいかがでしょう?
 
アンドリューTwitterやインスタグラムについては、プロモーションでの活用はもちろんのこと、お客様の投稿を分析し、ユーザーインサイトを深く知るためにも活用しています。私たちが想定していなかったシーンでの使用や、新しい使い方などもあって非常に興味深いですね。そしてなにより、モチベーションアップにつながります。誰だって仕事のなかで気分のアップダウンがあるでしょう。そのなかで、お客様がティファールの商品を使って、美味しい料理を作ったり、家族と一緒に幸せそうにご飯を食べている姿を目にすると、非常に元気付けられる。昔は、売った後はどういう使われ方をされているのかわからなかったですから。ネットやSNSは、個人的な満足や幸せにもつながっていると思います。
 
別所とても大切なことですよね。それでは、最後に、日本におけるティファールの今後についてお話しお願いします。
 
アンドリュー実は、同じティファールブランドでも、国によって、それぞれの販売会社が決めた戦略次第でイメージが大きく異なります。アメリカでは、販売チャネルや商品ラインナップの影響で、どちらかというと安売りのイメージが定着していますし、フランス本国では、どこにでもある、誰でも持っているというマス中のマス、中の中の位置付けです。そして、私たちが日本で目指しているのは、中の上ですね。手が届かないわけではないけれど普通よりちょっとお値段が張る、だけどそのぶん質が高いという。
 
別所なるほど。
 
アンドリュー日本での過去の調査によると、ティファールのフライパンセットを初めて買ったきっかけナンバーワンは「結婚」でした。新しい家族ができるタイミングや新居で暮らしはじめるといったときに、ちょっと高いけれど、せっかくなのでいい道具を揃えたいということなんだと思います。超高級ブランドではないけれど、マス向けのものよりは少しいいもの。少々値段は張りますけど、それ以上の価値があるもの。私たちは、買って満足、アフォーダブルなラグジュアリーを目指していきたいです。
 
別所素晴らしい。
 
アンドリューそのためにも、これから社会がますます変化し続けていくなかで、時代に合った高い付加価値を持つ商品を出し続けて、お客様の期待に応えていきたいと考えています。25年前、日本にはティファールブランドは存在していませんでした。ティファールが開発した商品もなかった。そう考えると、これから25年先には、いまではまったく想像もつかないような商品が出来上がっていることでしょう。社会の変化に適応してティファールも進化して、これからも、お客様が、より楽しく、よりラクに、豊かな日常生活を送れるよう貢献していきたいです。
 
別所ありがとうございました。

(2021.8.11)

 


 
近影
 
1973年 アメリカ・インディアナ州生まれ
1991年 イェール大学に入学
1995年 ソニー㈱に入社
2013年 グーグルジャパンに転職
2015年 グループセブ ジャパン社長に就任