【ブランデッドムービーの旗手たち】日本国際観光映像祭ディレクターも務める木川剛志教授が見た海外と日本の観光映像とは?

 

interview_kigawa

 

「連載インタビュー:ブランデッドムービーの旗手たち」では企業のブランディングや企業メッセージをショートフィルムの形で発信しているブランデッドムービーに関わるクリエイターや、ブランデッドムービーに関わる人たちに話を聞き、現代の新たな生活者とのコミュニケーションとなっているブランデッドムービーの今と未来を探ります。

 

連載第2回目は、ご当地のブランデッドムービーとして全国各地で作られる「観光映像」に注目し、和歌山大学観光学部の教授であり、日本国際観光映像祭のディレクターとして国内外の観光映像にも造詣の深い木川剛志さんにインタビューをお届けします。

 

【福井での経験が観光学に繋がった】

Q: 観光学部で研究されている内容を簡単に教えてください。また、研究を始められた理由とは何ですか。

私のもともとの専門は都市計画です。それが観光映像の研究をするようになるきっかけは大学教員としての初任地である福井市での経験にあります。
福井市は空襲で焼け野原になった街でした。街の調査をするうちに、街のイメージの形成に、住民の記憶に残る“焼ける前の姿”が大きな影響を与えているのではないかと考えるようになりました。
そのような住民の記憶を見える化するためにインタビューを重ねて短編映画を撮るようになり、それが次第に私の研究となっていきました。

 

【日本国際観光映像祭を通して伝えたいこと】

Q: 日本国際観光映像祭を始められたきっかけは何ですか。また、どのような映像祭なのか簡単に教えてください。

2015年から和歌山大学観光学部に異動し、映画制作研究に新しく観光学が加わりました。当然、観光映像に興味がわき、その流れで同僚から勧められたポルトガルの国際観光映像祭ART&TURに参加し、映像祭関係者と語り合いました。彼らから「日本からの応募がほとんどない。日本には観光映像がないのか?」と責められ(笑)、日本にも良い観光映像がいっぱいある!映像祭をつくって日本の観光映像を世界に届ける!とついつい宣言してしまいました。それが映像祭を始めるきっかけでした。

日本国際観光映像祭は2019年に立ち上げ、2021年の第3回からCIFFTと呼ばれる国際観光映像祭ネットワークの正式メンバーとなりました。このネットワークではCIFFTサーキット事業を一緒にやっています。
各映像祭で受賞すると、グランプリなら13点、部門最優秀賞なら7点といったポイントが与えられます。その総獲得ポイントで、その年の世界一の観光映像を選ばれる。それぞれの映像祭ごとにランキングが入れ替わりますから、受賞は世界各国でニュースとなります。
観光映像に力をつけること、それが映像祭の大きな役割です。
今年の第4回日本国際観光映像祭は鹿児島県の与論島で開催するのですが、国内部門201本国際部門1542本の応募がありました。映像祭では与論島のSDGs観光について学んだり、観光映像のあり方やデジタルマーケティングを語るフォーラムも開催する予定です。

 


ポルトガルの観光映像祭ART&TUR(2019)


【観光映像が発する強いメッセージ】

Q: 特に印象に残っている観光映像は何ですか。また、その理由を教えてください。

スペインのカタロニア地方の観光映像『The Route of Fate』です。
バルセロナを起点とした地域周遊をテーマとした観光映像ですが、一大観光名所、サグラダ・ファミリア教会をあえて一部しか映していない。
バルセロナは世界で最も早くオーバーツーリズムが問題となった都市です。そのためバルセロナ以外の街へ観光客を誘導したい。バルセロナ起点なので背景としてサグラダ・ファミリア教会を映すが、紹介はしない、という強い意志を感じました。
映像自体のクオリティもとても高く、旅は偶然から生まれる、人との出会いこそが旅、それを高らかに歌い上げる映像です。高度な観光戦略と素晴らしい映像の融合。これが世界の観光映像か、と感動しました。実際、その観光映像は2018年のCIFFTランキング1位の映像となりました。

 


【観光映像はこれからの観光促進に必要なツール】

Q: 観光映像が観光業に及ぼす(及ぼしている)影響・インパクトは何だと思いますか。

2015年以降、観光業界が目指してきたことは日本版DMOの確立でした。DMOは長期的戦略を立てて持続可能な観光地の形成を目指します。
それに伴って観光映像の役割も大きくなりました。これまでの観光戦略は、来てくれるお客さんの特性を理解し、それにふさわしいツアーやサービスを提供するというものでした。しかし、観光が促進する対象が観光業から地域そのものとなる時代を迎え、観光戦略は“受け身”の姿勢から“攻め”へと変わりつつあります。
どんなお客さんに来て欲しいか、どんな体験をしてほしいか、そんな構築モデルを実装する、そのための強力なツールが観光映像です。顧客主導型ではなく、観光地主導型の観光の実現が観光映像を起点としたDX(デジタルトランスフォーメーション)によって進んでいくと思います。

 


第1回日本国際観光映像祭(大阪)(2019)

 

【観光映像がもたらす効果とは】

Q: 観光映像の魅力や、今後の課題・可能性は何だと思いますか。

観光映像の魅力は、視聴者に世界の美しさを伝える、そんなポジティブなメッセージの発信にあります。また関わる人間にとっても、これからさらなる成長が見込める分野であることも魅力でしょう。2014年のGoogleの調査「The Travelers Road to Decision」では旅行者の4割以上がYouTubeを見て旅行先の情報を得ていることが明らかになりました。今ではその割合はさらに高まっているはずですし、観光映像の力はこれからもさらに増していきます。

ただ、観光映像による経済効果がまだまだ数値として十分に算出されていないため、YouTubeの再生回数を主たるKPIとして設定するクライアントも多く、その結果、YouTubeの広告費用が重視され、観光映像そのものの質が問われることが少ないことは、今後の大きな課題です。観光映像で何が得られたのか、何を変えることができたのか、このプロデュースの役割が理解され、映像の質とともに実際の効果検証が進めば、日本の観光映像はもっとよくなっていくと思います。

 

【これからの観光映像のポイント】

Q: 観光映像に必要だと思う視点・ポイントは何だと思いますか。

観光映像はまだまだ新しい分野です。日本ではCM映像の延長と見られることが多いですが、これからはドキュメンタリー視点が重要です。今の観光には、観光客が訪れる場所と地元住民の生活の場との間に境界線はありません。旅行者は、観光地価格の見栄えのする料理よりも、地元の人たちが普段食べているものを求めるようになりました。綺麗な場所を求めるだけでなく、場所のリアリティを感じたい。だからこそVlog(ブイログ)といった個人旅行をありのまま伝える“本音”の映像が人々の心を打つようになっているのでしょう。

CM映像では、想定する視聴者は未来の顧客であり、その顧客に対してクライアントが提供するサービスをしっかり伝えることが重視されます。一方ドキュメンタリー映像では視聴者は単なる顧客ではありません。映像製作者と視聴者が同じ方向を見て、なぜ私たちは美しい風景を求めるのだろう、なぜに人と会いたくなるのだろうか、このような問いを共有して、結果、映像に共感する。このようなドキュメンタリー性、作家性がこれからの時代の観光映像には求められてくると思います。

 

【国内と海外の観光映像の違い】

Q: 国内と海外の観光映像の違いは何だと思いますか。また、海外の観光映像から学ぶべき視点・ポイントはありますか。

世界の観光映像と比較すると、日本の映像はCM要素が強いことが特徴です。
海外の映像祭の議論の中で、観光映像の重要な三要素は「スリーミニッツ」「ノーデータ」「ストーリーテリング」とされてきました。尺は3分程度、余計な観光情報は入れずに映像で表現する、物語で描く、ということです。
しかし、日本の観光映像では「ノーデータ」「ストーリーテリング」はあまり意識されていないように思います。「ノーデータ」は観光情報に頼らない、つまり観光地を比較可能な“スペック”で語らないということでもあります。日本の観光映像はスペックを語ります。この観光地の魅力は海、海の幸があります、このレストランで食べることができます。しかし、観光客にとって最も重要なことは海と触れ合う感動、料理を美味しく食べることであって、スペックではありません。
海外の映像祭関係者からは、なぜ日本の観光映像のタイトルには観光地の地名が入っているのか?と聞かれます。観光映像は場所の紹介ではなく、旅の感動を伝えるもの、だからタイトルはストーリーを反映すべきではないか、と。
海外の映像の多くには、知名度向上といった漠然としたものではない、明確なゴールが設定されています。ゴールの実現のために、クリエイターの才能を最大に活用し、ストーリーテリングが導く感動によって人を動かします。この点において海外の観光映像から学びことは多いと思います。

 


第3回日本国際観光映像祭(京都・清水寺)(2021)

 

木川剛志(大学教授/日本国際観光映像祭ディレクター)
1976年生まれ。京都工芸繊維大学卒業。卒業後はスリランカや中国、アメリカなどで建築家修行をする。ロンドン大学バートレット大学院修了。福井工業大学所属時にプロデューサーをつとめた短編映画「カタラズのまちで」(津田寛治監督)が2013年にショートショートフィルムフェスティバルにノミネートした。和歌山大学観光学部に2015年に異動し、街を舞台とした短編映画、ドキュメンタリー映画を製作する。監督をつとめた、短編映画「替わり目」は第9回商店街映画祭グランプリ、ドキュメンタリー映画「Yokosuka 1953」は第4回東京ドキュメンタリー映画祭で長編部門グランプリに選ばれる。ポルトガル、スペイン、クロアチア、トルコの国際観光映像祭で審査員をつとめている。